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那覇家庭裁判所 昭和48年(家イ)148号 審判 1973年11月20日

申立人 由良喜方(仮名)

相手方 由良志津子(仮名)

主文

申立人が昭和三〇年八月三〇日○○村長に対する届出により相手方に対しなした認知が無効であることを確認する。

理由

一  本件申立ての要旨は、戸籍上相手方は申立人と相手方の実母申立外由良咲枝(当時金城咲枝)との間の長女として登載されているが、真実は、相手方は上記申立外実母由良咲枝が連れ子として昭和三〇年五月三一日申立人と婚姻し、その後相手方の将来を慮つて昭和三〇年八月三〇日相手方を申立人と上記申立外実母由良咲枝との間に生れた子として申立人が認知したものであつて、申立人と相手方との間には何等父子の血縁関係がない。従つて申立人のなした上記認知は真実に反するものとして無効である。よつて真実の戸籍に訂正するため本件申立におよんだというのである。

二  本件について昭和四八年一一月二〇日開かれた調停委員会の調停において、当事者間に主文同旨の合意が成立し、その原因においても争いがないので当裁判所は本件記録編綴の戸籍謄抄本並びに当庁調査官仲山洋子の調査報告書および当事者双方の各審問によつて必要な調査をしたところ、申立人の上記申立ての事実を認めることができる。

三  そこで申立人が上記認知の効力を争うことができるか、否かについて考察するに、おもうに認知制度は血縁上の親子を法律上の親子たらしめんとするひとつの手段である。すなわち嫡出子でない子の事実上の父がこれを認めることによつて両者間に法律上の父子関係を成立させる行為であるから、認知により法律上の父子関係を成立させるには事実上の父である者がこれをなすことを必要とするのであつて、血縁上父子関係のない当事者に法律上の父子関係を生じさせることを認めようとするものではない。したがつて認知者と被認知者との間に父子の血縁関係が存在しない場合には認知者がこれを知つて認知をなしたか否かにはかかわりなく上記認知は無効というべきである。そうして、上記の認知をなした父はその認知に関して利害関係を持つものというべきであるから、同人は民法第七八六条にいう利害関係人として認知が真実に反することを理由として、その無効を主張することができるものと解すべきである。もつとも民法第七八五条は認知をした父がその認知を取消すことができない旨を規定しているけれども認知の意義が上記に述べたとおりのものである以上認知者と被認知者との間に父子関係の血縁関係が存在しなければその認知は無効であつて、上記民法第七八五条の規定は認知者と被認知者との間に父子の血縁関係が存在する場合を前提とし、その場合に認知が詐欺または強迫によりなされたとしてもこれを理由にその認知を取消すことは許されない旨を規定しているに過ぎないものと解すべきである。

四  してみると、申立人が相手方との間に父子の血縁関係が存在しないにもかかわらず、昭和三〇年八月三〇日相手方を申立人と申立外実母由良咲枝との間に生れた子としてなした認知が無効であると主張することは許されるものというべきである。

五  よつて当裁判所は調停委員田原惟信、政岡慶子の意見を聴き、申立人の上記認知無効確認の申立は正当としてこれを認容することとし主文のとおり審判する。

(家事審判官 前鹿川金三)

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